書名はズバリ、「埼玉県立浦和高校」

 「埼玉県立浦和高校~人生力を伸ばす浦高の極意~」(佐藤優・杉山剛士著 講談社新書)。
 学校名がそのまま本のタイトル。
 講談社ほどの大出版社になると、本のタイトルで目を惹こうという発想がないものと見える。

 杉山剛士氏は現・浦和高校校長(平成30年3月末で定年退職予定)。
 佐藤優氏は元外交官で作家・評論家、浦高卒業生。
 前半は、佐藤氏が行った在校生向けと、保護者向けの講演がベースになっており、後半は佐藤氏と杉山校長の対談。

 佐藤氏は講演会に呼ばれてるんだね。宇宙飛行士の若田光一氏や、心臓外科医(天皇陛下の手術を執刀)の天野篤氏がOBとして呼ばれるのは分かるが、佐藤氏は外交官時代、鈴木宗男事件にからんで有罪判決(執行猶予付き)を受けている。どこからかクレームつかなかったのか、「犯罪者を呼んでいいのか」という。

 佐藤氏は、「浦和高校のような地方の伝統校には教育上の深い知恵がいろいろと詰まっているのではないかと思うようになり、機会があれば、自分の経験や意見を一冊の書物にまとめてみたいと考えていた」(「はじめに」より)と、その執筆動機を述べている。
 近年は、私立高校の攻勢が激しく、かつてのような絶対的な存在ではなくなってきたが、たしかに教育課程や授業のあり方、先生と生徒の関係性、学校行事や部活動の位置づけなどには、新興勢力にない魅力がある。(私もOBの端くれだから、ひいき目があるけれど)

 世間に伝わっているのは、東大合格者が減って来たとか、その合格者も浪人ばかりだというような大学進学実績の話(数字で表せる話)ばかりで、そこでどんな教育が行われているかは、あまり知られていない。
 その意味で、浦高に限らず公立伝統校を目指そうという受験生には、一読してもらいたい本だ。

 私は、佐藤氏を著書やマスコミでの論説などで知るのみである。率直に言って、その政治的な主張や分析には同意できない部分も多い。
 だが本書は、その主要テーマが「高校時代の生き方・学び方」、「大学受験」、「卒業後の人生」であることからも分かるように、政治色のほとんどない教育論であるから、学校や塾の先生方にもお勧めできる一冊だ。

 講談社新書 埼玉県立浦和高校

「老人の取扱説明書」とはふざけたタイトルだが

 ふざけたタイトルだ。
 「老人の取扱説明書」だと。老人をモノと一緒にするんじゃねえ。

 とか言いながら、思わず手に取ってしまうのだよ。編集者、タイトルの付け方うまいね。
 本の売れ行きはタイトル(書名)で決まる。

 タイトルはふざけているが、著者は眼科医で、中身は至極真面目なものだ。
 私はこの本を、77歳の友人に贈ってやろうと思って購入したのだが、その前にざっと目を通しておこうと読み始めると、まあ、出るわ出るわ、自身に思い当たる現象がこれでもかと紹介されているではないか。

 ―老人が都合の悪い話を聞こえないふりをするのは、本当に聞こえてない可能性がある―
 老人になると高い音が聞き取れなくなるそうだ。若い女性の甲高い声がダメなんだって。
 そう言えば最近、彼女らの会話は、ただの雑音にしか聞こえなくなっている。それでいいけど。

 -名前を思い出せないのは、たくさんの人を知っているからだ―
 そうなんだよ。長く生きてると何千、何万という人に会っているから、それでなかなか思い出せないんだ。知り合いが同級生ぐらしかいないガキどもとは違うんだよ。

 -料理に醤油やソースをガボガボかけるのは、塩味に鈍感になっているからだ―
 老人が若者と同じ味覚を感じるためには、若者の12倍ぐらいの塩分が必要なんだって。こりゃ恐ろしい。
 「最近は、薄味が好みになってねえ」なんて言ってるが、実は、薄味に感じっちゃってるだけかもしれない。気をつけよう。

 老人の不可解な行動や、はた迷惑な行動にも、ちゃんとした医学的な理由があるわけだ。

 この本は、取り扱う側である若い人たちの参考書になると思われるが、取り扱われる側であるわれわれ老人にも大いに役立つものである。
 
 老人の取扱説明書

AI(人工知能)の弱点は読解力らしいぞ

 このところAI(人工知能)に関する本を集中的に読んでいるのだが、その中の一冊に「AI VS.教科書が読めない子どもたち」がある。

 著者の新井紀子氏はNetCommons(ネットコモンズ)の開発者として、すでに教育界ではよく知られた人物だが、最近では人工知能「東ロボくん」の研究開発リーダーとして有名であるから、著書を読んだり、講演を聞いたりした方も多いと思われる。

 新井氏は数学者であるが、大学は一橋大学法学部だ。バリバリの文系。
 が、大学入学後に数学に目覚め、米国イリノイ大学(数学科)に留学し、以後数学者の道を歩んできたという異色の経歴の持ち主だ。

 「東ロボくん」は、国立情報学研究所が中心となり、「ロボットは東大に入れるか」をテーマに人工知能の研究・開発を進めてきたプロジェクトである。

 詳しくは本書に譲るが、「東ロボくん」の偏差値は、順調に上昇し、MARCHレベルなら合格できるところまで到達した。が、その先が進まない。
 「東ロボくん」は、コンピュータ(電子計算機)であるから、計算とか記憶には抜群に強いが、読解力が弱いという致命的欠陥があり、それが克服できない。

 そこで、どうやったら読解力がつくかの研究をするわけだが、その過程で、「日本の中高生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できない」という事実が浮かび上がってきたため、研究の中心が、東大合格から中高生の読解力向上に移ってくる。

 前半はAIについての概説で、多少専門用語が出てくるが、高校レベルの数学の知識があれば普通に理解できる。
 後半は、「RST=リーディング・スキル・テスト」の話が中心となるが、その調査結果は、現場で苦労されている先生方の実体験を裏付ける形になっており、共感できる部分も多いのではないか。

 AI VS 教科書が読めない子どもたち S

「きのね」で知る歌舞伎という特殊な世界

 宮尾登美子の小説に「きのね」(新潮文庫・上下)というのがある。
 きのねは、歌舞伎で使われる拍子木の音。

 主人公のモデルとなったのは、11代市川團十郎の妻。
 なお、56歳の若さで亡くなった11代市川團十郎の長男が2013年に66歳で亡くなった12代団十郎で、その長男が今話題の市川海老蔵という関係。海老蔵は行く行く歌舞伎界の大名跡・13代市川團十郎を襲名することになるだろう。
 奥さん(小林麻央さん)を亡くされた矢先に不謹慎と言われるかもしれないが、海老蔵の祖父も父も病に侵され若すぎる死をとげている。その血を受け継ぐ海老蔵であるが、ぜひ長生きしてもらい、歌舞伎界の屋台骨を支えてもらおう。

 さて、小説「きのね」の話であった。
 もう一度読み返そうと思ったが、数千冊の山から発掘するのは困難とあきらめアマゾンで購入。

 主人公・光乃のモデルは11代市川團十郎の妻・千代さんである。他の登場人物も名前はすべて変えてあるが、歌舞伎に精通した人なら、実在の誰と特定できる仕掛け。

 貧しい生い立ちの光乃は縁あって梨園の名門の家に女中として奉公し後に11代の妻となり当代きっての人気役者を陰で支えつつ幸せな家庭を築いていく物語。
 というと、ただの出世物語にしか聞こえないが、家柄、伝統が重んじられ因習うずまく特殊な芸事の世界で名もなき女性が生き抜くさまは読んでいて気が重くなり何度も投げ出したくなったほどだ。

 決して華やかさだけではない梨園の妻となった小林麻央さんにも人知れぬ苦労があったものと思われる。
 謹んでご冥福を祈る。

「90歳。何がめでたい」、その気持ち少し分かる

 佐藤愛子著「90歳。何がめでたい」(小学館:1200円)を読んだ。68万部突破のベストセラーということだ。

 佐藤愛子は半世紀前の直木賞受賞作家だ。正確には1969年上期の受賞。
 同じとき、庄司薫が「赤頭巾ちゃん気をつけて」で芥川賞を受賞しており、高校3年生だった私の興味はそっちに向いていた。同級生の誰だったかが、受賞作の載った文芸春秋を買ってきて、「これ、面白いぞ」というので、借りて読んだ記憶がある。
 というわけで当時は、佐藤愛子? 知らんな。

 佐藤愛子は大正12年生まれというから、昨年死んだ14年生まれのわが母と同世代だ。そんな「お婆ちゃん」が、いまだ現役作家とは驚きだ。
 私は90歳まで生きないと思うが、仮に生きながらえたとして、今から25年後、人が読むに堪える文章を書けるかどうか。今だって相当に怪しいのであるから、絶対に無理だ。

 本書は、女性週刊誌に連載されたエッセイをまとめたものである。
 筆者は、テレビ番組や新聞や、日常のさまざまなことに怒りをぶちまけている。いちいち、昔はこうだったと言われると、若い人はイラっとくるかもしれないが、私などはザックリ言えば、「年寄り」という同じカテゴリーに属しているので共感できる部分が多い。本書がベストセラーになったのは、そういう世代の支持があったためだろう。

 筆者の父(佐藤紅緑)は著名な作家で、いわばお嬢様育ちと言っていいが、その後の人生は波乱万丈だ。直木賞受賞作「戦いすんで日が暮れて」も、夫の倒産による大借金の返済に奔走する自らの姿を描いたものだ。
 しかし、どんな逆境にあっても、明るくたくましく生き抜いてきた著者の生き様は、痛快でもあるし、悩める人々に勇気を与えるかもしれない。

 最近、ただぼんやり生きるだけで、本来悩むべきはずのことも、無気力にやり過ごしてしまう私は、ちょっとばかり喝を入れられた気分だ。

プロフィール

梅野弘之

Author:梅野弘之
受験生・保護者の皆さん、学校や塾の先生方に最新情報をお届けします。ただし、結構頻繁に受験と無関係の話も。

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