大口をたたくのは弱さの表れだからね

 かれこれ10年近く前のことだ。
 失敗談を一つ。

 非常に良くできる男の子がいた。スポーツも最後の最後まで頑張っていた。
 当然、トップ校狙いだ。私は直接勉強をみてあげたりもしていたから、実力は分かっていた。間違いなく合格できる。

 ただ一つだけ引っかかることがあった。かれは俗にいう「ビッグマウス」だった。大口(おおぐち)をたたくのだ。
 「〇〇高校なんて大して難しくない」とか、「あいつはまぐれでオレに勝ったけど、実力はオレのほうが上だ」とか。入試直前には「オレ、全然緊張してないし」とも言っていた。まったく可愛げのないガキだ。

 私の人生経験の中では、大胆なことを言う人間は案外「小心者」だった。
 人間は誰しも弱さを持っている。強い人間の中にも弱さはある。その弱さを隠すために、心にもない大きなことを言う。自分にも身に覚えがある。

 「先生、不安で夜も寝られません」とでも言って来れば、「あっ、そう。じゃあ起きてれば」と軽口の一つも叩けるが、本人が「全然不安ないし。オレが落ちるぐらいならみんな落ちる」とまで言い放つのだから、返す言葉がない。
 ただ、私には一瞬かれの目の奥に浮かぶ不安が見えていた。見えていたが、適切な言葉が見つからなかった。

 入試当日、わずかにあった不安が現実のものとなった。
 1時間目国語。実は人一倍緊張しやすいタイプであるカレは、思い通りの点数が取れなかった。実はこの時点で体に異変が起こり始めていた。
 2時間目数学。ここでも過度の緊張のあまり、いつもだったら軽く解ける問題をしくじった。そしてついに過呼吸に陥った。
 3時間目社会。心配した高校の先生が保健室で受けられるように配慮してくれた。いつも満点だった社会に望みをつなぐが、カレの気力・体力は限界に達しており、無念の途中リタイアとなった。
 
 結果として、わずかにあった予感が的中してしまったのだが、私自身、どうせヤツのことだから、「簡単だよ、楽勝」とか言って帰って来るだろうと思っていたのだ。失敗だった。

 という昔話なのだが、かれはその後、抑えだった私立に通い、もともとは実力十分だったので難関国立大学に合格した。同じ失敗は繰り返さなかったようだ。

 長くなったが、ここから得られる教訓は何だろう。

 緊張してる?
「はい少し。いや、実はとんでもなく緊張して今にも心臓が飛び出してきそうです」
 不安はある?
「はい少し。いや、実はオシッコちびりそうなぐらいです」

 受験生諸君。これでいいんだよ。これが普通。

コメント

No title

最後の落ちで思い切り励まされました

コメントの投稿