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学校より塾が分かりやすいのは当然なのだ

 「学校の先生より塾の先生の方が分かりやすい」。

 中学生は上手なお世辞など言えないから、これはたぶん本音である。
 これを聞いた塾の先生は、日頃の研鑽の賜物であるから、ちょっとは胸を張っていい。だが、「どうだ、参ったか。こっちが上だ」などと、己を過信してはいけない。なぜなら、学校の授業と、塾の授業とでは条件が違い過ぎるからだ。同じ条件下で授業をした場合に、それでもやっぱり「学校の先生より塾の先生の方が分かりやすい」と言わせられれば本物だ。

 学校の授業が分かりにくいのは、授業のスピード(授業の進度)を調整できないからである。
 教員経験を積めば、「連中うなずいてるけどわかってないな」ということぐらいすぐに見抜ける。見抜いたら、ちょっと立ち止まるとか、少し前にさかのぼるとかしてやれば、分からせることはできる。学校の先生はそのぐらいのスキルは当然ながら持っているのである。
 では、なぜそうしないかというと、学校の授業には学習指導要領による縛りがあるからだ。教える内容、教え方、教える順番などは、この制約の下にあるのだ。個々の教員の裁量など事実上ないに等しい。
 全体の進度を考えれば、理解不十分な生徒がいても、不本意ながら先に進めざるを得ないのである。

 学校のクラスには、100点満点のテストで90点以上取れる生徒から、10点も取れない生徒が混在している。教える側としては、大変困難な状況だ。
 これも、一定数の「分からない生徒」が出現してしまう原因だ。

 というわけで、「学校の先生より塾の先生の方が分かりやすい」のは、個々の先生の力量がどうこうよりも、制度やシステムに問題があるからである。
 
 だったら、変えればいいじゃない。
 その通りなんだが、それがさっさと出来ないのが、今の公教育なのである。

 こんな言い方をすると、塾の先生方は気分を悪くされるかもしれないが、私に言わせれば「学校の先生より塾の先生の方が分かりやすい」なんてことは、当たり前の話なのである。
 その程度で喜んでいないで、「分かりやすい」のもっと先を目指してもらいたいものである。

現状維持と言って自分を誤魔化してはいけない

 現状維持は凋落の始まりである。

 いま仮に、塾生数50人の塾があったとする。
 翌年48人になった。対前年比96%、たった2人の減少だ。直ちに自分や先生たちの給料を減らすような一大事ではない。「まあまあ、現状維持かな」と自分を納得させる。
 さらに翌年、46人になった。前年の48人を基準にすれば、やはり対前年比96%で、「まあまあ、現状維持かな」とここでも自らを納得させる。
 というようなことを5年続けると、塾生数は40人になる。ここまで来れば、経営体制を見直す必要が出てくるだろう。

 1人でも2人でも減れば、厳密には現状維持できていないのだが、下がっているが大した問題ではないと思いたくなる。その気持ち分かる。
 業績は5年、10年のスパンで見なければならないが、さしあたり直近の業績と比較してみたくなる。これも分かる。

 生徒の成績もそうだ。
 95点が93点になっても、まあまあだな。偏差値が0.1下がっても、前とおんなじだ。で、次に94点とったら、ちょっとだけど前より上がったじゃないか。いや、全然上がってないよ。
 成績に上がり下がりはつきものだが、現状維持はダメなんだよという姿勢で臨まないと、いつか取り返しのつかない事態に陥る。

 私は過去、まあ現状維持だからと自分を誤魔化してきた結果、何度も手痛い失敗をしてきた。
 前よりも、ほんの少し上がった。これが現状維持。
 前よりもわずかでも下がったら、これはもう現状維持ではなく、凋落の始まりだ。

学校と塾とで異なる「教務」という言葉の意味

 突然だが、「教務」という言葉(用語)について考えてみよう。
 私は、元公立高校の教員で、後に民間人となり塾関係者ともお付き合いするようになった。

 学校の先生も、塾の先生も、共に「先生」と呼ばれる職業であるが、そこで使われている用語の中には、同じ用語でも意味合いが違うものがある。その最たるものが「教務」という用語である。

 ある時、塾の先生が「仕事の効率化を図ることにより、先生方が『教務』に全力を傾けられる体制を作りたい」と言うので、一瞬「あれれ?」と思った。
 教務は大事だけど、それに全力っていうのはまずいでしょう。

 私の知っている「教務」というのは、カリキュラムを編成したり、年間行事予定や時間割を作ったり、指導要領などを管理したり、その他諸々の事務的仕事。企業で言えば、庶務や総務といったところ。
 要するに、進路指導部や生徒指導部がやらない仕事は、とりあえず教務部ね。みたいな感じ。
 そんな雑多なことを任される部署だけど、校内的な位置づけは結構高くて、校長・教頭に次ぐポジションは教務主任というのが暗黙のお約束。

 そんなわけだから、私にとっての「教務」は、生徒を直接指導することのない仕事なのだが、塾の先生の言う「教務」は、それとは逆に、生徒を直接指導する仕事、すなわち「授業」を主に指していたのである。

 まあ、業界が違えば、使う用語もその意味も違って当然だから、どっちが正しいとかいう問題ではない。


 教務の話題をもう一つ。
 私立学校では、生徒募集や入試、広報などを担当する独立した部署があるのが普通で、大抵は専任スタッフがいる。
 ところが公立学校ではこれに相当する独立した部署がない。例外もあるが、ほとんどの学校では、教務部の中の一部門、一担当として生徒募集や広報がある。私立と公立の生徒募集というものの位置づけの違いでそうなっているのだろう。

 塾の先生方が、何かの事情で、入試や説明会などについて学校に問い合わせをする場合、私立なら「入試担当の先生」、「募集担当の先生」と言えば、すぐにしかるべき先生に取り次いでくれるが、公立だと電話を受けた事務職員の方が、「はて、誰に取り次いだものか?」と迷ってしまう。

 一番手っ取り早いのは「教頭先生、お願いします」で、大方これで解決するのだが、なにせ教頭先生は忙しい。ほとんど過労死寸前だ。そこで、次の手段として、「教務主任の先生、お願いします」を使う。公立学校において教頭先生に次いで何でも知っていて、何でもやっちゃうのは教務主任である。

 以上、あくまでも私自身が見た聞いた範囲であるが、教務にまつわる話であった。

塾では入試に出ないことは教えなくていい

 学校の授業と塾の授業の違い。

 学校の授業では、入試には出ないと分かっていても教えなければならないことがある。塾の授業では、入試に出ることだけを教え、出ないと分かっていることは教えなくていい。
 学校の授業には学習指導要領という縛りがあるが、塾には何の縛りもない。それに、塾の授業時間数は学校より少ないのだから、選んで教えないと時間が足らなくなる。

 社会科公民では日本国憲法を教えるが、いまだかつて第1章、第2章から出題されたためしはない。(関東地方1都6県の調査)
 第1章は「天皇」で、ここに「国民主権」のことが書かれている。第2章は、言わずと知れた「戦争放棄」である。
 では、学校の授業でこれらに触れなくていいかというと、そうは行かない。「国民主権」、「平和主義」、「基本的人権の尊重」を日本国憲法の三大原理と教えるわけだし、教科書には象徴天皇制のことも自衛隊のことも日米安全保障条約のことも出ているからだ。

 教科書に書いてあるのに、なぜ入試には出ないのか。その理由を述べると長くなりそうなので別の機会に譲るが、読書の皆さんには大方想像がつくことだろう。

 ここ数日同じような話が続いているが、塾の指導には「費用対効果」の考え方があっていい。塾はビジネスであるから、経営面では言われなくてもそうしていると思うが、ここで言っているのは、指導面においてである。

 「費用」は、「学習に投じた時間とエネルギー」である。
 「効果」は、「得点や偏差値」である。
 「費用」に見合った「効果」が得られなければ、塾の存在意味がない。

 高校に入ってから伸びるように、大学・社会人になってからもっと伸びるように、学びの本質に迫った指導をしたい。子供の指導に関われば誰しもそう思うに違いない。
 自主性も持たせたいし、自立心も育てたいし、協調性や他人を思いやる心も育てたい。礼儀だって身につけてやりたい。根性もつけてやりたい。

 ただしこれらは、塾の目的ではなく、得点や偏差値を上げるための手段である。
 「費用」に見合った「効果」をきっちり出してやるぜというのが塾のプライドというものだろう。

個人塾ガンバレの企画

 埼玉新聞に、高校入試企画特集「真夏の大予想」が掲載された。
 今日(21日)と明日(22日)の2日間、大きく1面を使っての特集である。

 今年で3年目となるこの企画、受験生を応援するだけでなく、私の中では個人塾応援企画である。
 私は10年以上前から、スクール21、埼英スクールといった、いわゆる大手塾と組んで、入試予想番組をやっている。これら大手塾の情報収集力や分析力は大したもので、今後も続けて行きたいと思っている。

 一方、いわゆる個人塾の塾長の中にも、ユニークかつ実力ある人材がそろっており、これもなかなか捨てがたいなとずっと以前から思っていた。
 何とかかれらにもスポットを当てる機会がないものか。
 それで考えたのが、この特集である。

 塾長らの高齢化もあって、個人塾は減少する一方だが、そんな中でも己一人の力を頼りに奮闘を続ける塾長は決して少なくない。
 そういう人たちを応援するのも、私の仕事の一つだと思っている。
 こうした企画がどれだけ役に立っているかはよく分からないが、今の私のできるのはこの程度だ。

 受験生にとっても、いろいろな選択肢があったほうが良いはずだから、個人塾の灯を消さないように、これからもささやかながら応援して行きたいと思っている。
プロフィール

梅野弘之

Author:梅野弘之
受験生・保護者の皆さん、学校や塾の先生方に最新情報をお届けします。ただし、結構頻繁に受験と無関係の話も。

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