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「イヤミスの女王」が書いた青春小説が面白そうだ

 湊かなえ「ブロードキャスト」
 学園青春小説と言えばいいのかな。あるいは部活モノ。

 私のような老人が読むような小説ではないが、主人公が高1で舞台が部活とくれば、入試国語の長文問題に使われるかもしれない。一応、読んでおくか。
 それと、「イヤミスの女王」と呼ばれる湊かなえさんの青春小説というのも想定外の組み合わせで興味を惹かれる。
 読書界では、読み終わって「嫌な気分」が残るミステリーを「イヤミス」と呼んでいるようだが、湊さんのミステリーは事件解決でスッキリとはならず、なんかモヤモヤした読後感が残ると評判だ。そんな湊さんが、青春小説を書いたというから、ファンの皆さんもさぞ驚かれただろう。

 これからお読みになる方もいると思うので、ストーリー紹介は避けるが、舞台が放送部というところが面白い。文化部ならふつうは吹奏楽とか演劇でしょ。
 ずっと体育会系の私は、放送部のことは何も知らなかったが、この小説で初めて放送部の活動内容や大会の仕組みを知った。
 今年は放送部を取材しようと思っていたところなので、いい予習になった。

 放送部というと、お昼の校内放送で好き勝手な音楽を流している、楽勝な部活というイメージしかなかったが、アナウンサーとか声優を目指そうという人には面白い部活かもしれないと思った。それと、最近はドラマやドキュメンタリーなど映像制作にも力を入れていることも分かった。
 
 苦しい練習に耐え、挫折を乗り越え、ついには勝利をつかむというのが部活モノの王道だが、作者はここに、「汗と涙と感動と友情」とは対極にある「陰湿ないじめ」という要素を盛り込んできた。このあたりが、「イヤミスの女王」らしいところか。

 この作品は、高校生たちがいかにして栄冠を勝ち取ったかの物語であると同時に、かれらがいかにして目の前に起こる「いじめ」に立ち向かったかの物語でもある。

 

本を贈られたので、大人の礼儀として絶賛紹介しておく

 出版界には「年末進行」という業界言葉がある(あった)。
 私がこの言葉を知ったのは20数年前だが、今でも使われているのだろうか。

 年末年始は印刷・製本といった制作部門が休みになるので、定期刊行物の原稿締め切りが、ふだんより早くなる。これが「年末進行」。
 というわけなので、今日は朝から、1月中旬に出る情報紙の原稿をせっせと書いていたのである。
 と、そこへ、1通のゆうメールが届いた。
 差出人は、前・県立浦和高校校長の杉山剛士先生。

 1冊の本が送られ来た。
 「先生方へ埼玉発のプレゼント ポケットいっぱいの宝物⑥」
 タイトルだけでは何の本だか分からんね。
 ただ、「先生方へ」とあるから、辛うじて教育関係の本だというのは分かる。
  
 これ。
 ↓
 

 Amazonホント便利だね。どんな本でも見つかる。

 さて。
 これは「謹呈本」というやつだ。
 贈呈、進呈、これをもう少し丁寧に言うと謹呈。

 出版界には「献本」という習慣(しきたり)がある。
 新しく本が出たら、知り合いや関係者に本を送る(贈る)。
 以前、謹呈と言いながら、本と一緒に振込用紙を送ってきた人がいたが、これは単なる押し売りである。

 献本する目的。
 第一に、取材等に協力してくれた人々や日ごろお世話になっている方々に、純粋に感謝の気持ちを表すために送る。 「おかげさまで発行にこぎつけました。有難うございました」というわけだ。
 第二に、販売促進や広告目的で送る。「よかったらお知り合いにも紹介してくれませんか」ということだ。

 今回は第二の方だね。
 いいですよ。紹介しますよ。
 でも、読んでない本は紹介できないでしょう。それと、読んでつまらなかった本も。

 (1時間半後)
 はい、読み終わりました。
 おかげで、今日予定していた執筆作業が明日に先送りになったけど。

 出版のきっかけは、「現場の教師の方々の一助になりたい」、だそうだ。
 なるほど、「先生応援ブログ」を書き続ける私とは、きわめて親和性が高い。相性が良い。
 言い忘れたが、この本は、現役の先生15人による分担執筆。

 現役と言っても、小中の校長先生がほとんどなのだが、日々子供たちと接しているだけあって、退職した先生の思い出話や、大学教授や教育評論家の理想論とはひと味違う。
 先生方が読めば、ちょっと自分のクラスで試してみようかとか、明日生徒の前で話してみようかといったヒントが得られそうだ。最近話題の働き方改革や部活動、AI社会、グローバル化などに触れた論考もあり、頭の整理に役立つ。


 15人もの人たちが、思い思いのテーマで書いた原稿を、一つのまとまりのある書物に仕上げるのはさぞ大変な作業だったでしょう。監修の杉山先生、お疲れ様。
 しかし、このような現場の先生方の体験や思いを語り継いで行くことは大事なことですよ。シリーズが10、20と続き、ポケットをはみ出して、カバンいっぱい、本棚いっぱいになることを祈っています。

 今日の動画「講演会、影の主役は先生」

「友だち100人できるかな」って、無理無理

 菅野仁著「友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える」(ちくま新書)という本が売れている。

 9月に入ってNHK「おはよう日本」で紹介されたことが影響しているらしい。
 それ以前にも「世界一受けたい授業」でピースの又吉直樹さんが紹介したり、林修先生が「林先生が驚く初耳学」で紹介したりで、その影響もあるようだが、あいにく私はテレビをほとんど見ないので、知らなかった。

 というわけなので、近所の書店で売れ行き1位にランクされていたので読んでみた。
 最初、著者名を見て、「菅野完(すがの・たもつ)かよ、フン」と思ったが、よく見ると「菅野仁(かんの・ひとし)」という人だった。
 宮城教育大学で副学長を務められた社会学者。
 残念ながら2年前、50代の若さでお亡くなりになった。この本は10年前の著作だ。

 これは若い人向けに書かれた本だと思う。中学生でも十分行けるだろう。大学生や若いサラリーマンにもピッタリ合う。もしかしたら家族で読んだほうがいいかもしれない。もちろん、学校や塾の先生も。

 未読の方のために、あえて詳細には触れないが、著者はまず「友だち」をあまりにも重視する風潮に疑義を呈する。「みんな仲良く」なんて無理でしょうというわけだ。適度な距離感を持った人間関係が大事で、そのためには「他者」という(他人というのとは違う)存在を意識すべきだという。

 そうだ、そうだ。
 誰とでも分かりあえるなんて不可能だ。
 でも、学校や会社は「みんな仲良く」が前提になっているな。だから、人間関係に悩んじゃうんだ。

 学者が書いた本だけど、学術書・専門書というわけではない。若い人向けだが、私自身、日ごろ考えていることの整理になった。
 本の中に、人間関係に悩むわが子が登場する。執筆動機はそこかもしれない。結果としてわが子に贈る遺書みたいになってしまったが、私もできればこんな本を遺したいと思った。

 

電車の中でどんな本を読んだらいいか

 今日は少し時間が余ったから、電車の中でどんな本を読むべきかについて話すことにしよう。

 みんな、電車の中で本を読んだことあるか。ないだろうな。
 東京五輪を控えて嘆かわしいぞ。外国人が車内で全員スマホっていう異様な光景見たらビックリすると思うぞ。まあ、弁当食ったり、口半開きにして化粧してるよりはましだけどな。

 電車内読書の功罪だが、みんなどう思う?
 「目が悪くなります」
 そうだな。これが最大にして唯一の欠点だ。

 じゃあ、いい点は?
 「賢そうに見えます」
 そのとおり。あくまでも「賢そう」、look likeだけどな。少なくともバカには見えない。というかバカがばれない。

 「読む本によるんじゃないですか」
 いいとこに気づいたな。そうなんだよ。本のタイトルによっちゃ逆効果になる。
 そこで、カバーをかける。本屋さんでかけてくれるカバーでもいいが、別の本のカバーと架け替えるという手がある。

 「どんな本ですか?」
 村上春樹とかはやめとけよ。こいつファッションで読んでるんじゃないかと思われるからな。やっぱり哲学書かな。幾何学とか物理学とか理数系も賢そうに見える。ただし、「入門」とか「よくわかる」なんてのが付いてるとぶち壊しだ。

 「選ぶ基準が分かりません」
 いい質問だ。みんなが名前だけは知っているが、難しそうで読んだことがないというあたりを狙わなくちゃいけない。教科書に出ているレベルってことだな。ルソーとかカントとかニーチェとか聞いたことあるけど自分じゃ読んだことがない。それを高校生が電車の中で読んでいるというところがポイントだ。サラリーマンのオジサンたちが「今日、俺の前に座ってた女子高生がさ…」なんて会社で話題にするだろうな。

 とりあえず本屋に行け。文庫本コーナーあるだろ。岩波文庫とか講談社学術文庫あたりを探すんだ。で、たしか教科書出てたよなレベルを選ぶ。実際に読んでもいいが、難しいから「見せる用カバー」として使えばいい。ホントに読むのは新潮文庫や文春文庫あたりから選べばいい。

 「ところで、先生がいま持ってる本、それ何ですか?」
 これか。誉田哲也の「武士道ジェネレーション」。「武士道シックスティーン」から始まって「武士道セブンティーン」、「武士道エイティーン」と続く武士道シリーズの第四弾。新渡戸稲造の「武士道」とは違うぞ。こっちは剣道女子が主人公の部活モノだ。

 「俺たちが読む本でしょう」
 そこだよ。若いもんが読むようなのを年寄りが読み、大人が読むようなのを高校生が読む。その意外性に世間は注目するんだよ。
 おっ、チャイムだ。以上、今日の授業終わり。


 

 

書名はズバリ、「埼玉県立浦和高校」

 講談社新書 埼玉県立浦和高校

 「埼玉県立浦和高校~人生力を伸ばす浦高の極意~」(佐藤優・杉山剛士著 講談社新書)。
 学校名がそのまま本のタイトル。
 講談社ほどの大出版社になると、本のタイトルで目を惹こうという発想がないものと見える。

 杉山剛士氏は現・浦和高校校長(平成30年3月末で定年退職予定)。
 佐藤優氏は元外交官で作家・評論家、浦高卒業生。
 前半は、佐藤氏が行った在校生向けと、保護者向けの講演がベースになっており、後半は佐藤氏と杉山校長の対談。

 佐藤氏は講演会に呼ばれてるんだね。宇宙飛行士の若田光一氏や、心臓外科医(天皇陛下の手術を執刀)の天野篤氏がOBとして呼ばれるのは分かるが、佐藤氏は外交官時代、鈴木宗男事件にからんで有罪判決(執行猶予付き)を受けている。どこからかクレームつかなかったのか、「犯罪者を呼んでいいのか」という。

 佐藤氏は、「浦和高校のような地方の伝統校には教育上の深い知恵がいろいろと詰まっているのではないかと思うようになり、機会があれば、自分の経験や意見を一冊の書物にまとめてみたいと考えていた」(「はじめに」より)と、その執筆動機を述べている。
 近年は、私立高校の攻勢が激しく、かつてのような絶対的な存在ではなくなってきたが、たしかに教育課程や授業のあり方、先生と生徒の関係性、学校行事や部活動の位置づけなどには、新興勢力にない魅力がある。(私もOBの端くれだから、ひいき目があるけれど)

 世間に伝わっているのは、東大合格者が減って来たとか、その合格者も浪人ばかりだというような大学進学実績の話(数字で表せる話)ばかりで、そこでどんな教育が行われているかは、あまり知られていない。
 その意味で、浦高に限らず公立伝統校を目指そうという受験生には、一読してもらいたい本だ。

 私は、佐藤氏を著書やマスコミでの論説などで知るのみである。率直に言って、その政治的な主張や分析には同意できない部分も多い。
 だが本書は、その主要テーマが「高校時代の生き方・学び方」、「大学受験」、「卒業後の人生」であることからも分かるように、政治色のほとんどない教育論であるから、学校や塾の先生方にもお勧めできる一冊だ。

 
 



プロフィール

梅野弘之

Author:梅野弘之
受験生・保護者の皆さん、学校や塾の先生方に最新情報をお届けします。ただし、結構頻繁に受験と無関係の話も。

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