サラリーマンを辞めて独立起業したものの、ものの見事に失敗し大借金を背負ったフデキ社長にも得意技というものはある。
言い訳
できない理由探し
たとえば、言い訳。
とにかく早い。「間髪を入れず」とはこのことだ。
人から何か言われると、かれはまず、「いや」という言葉から入る。
「なんで、すぐにやらないんだよ」
「いや、今やろうと思っていたところです」
まあ、これなんかは誰でも言いそうだが、まず否定するってことが身についてしまっているもんだから、「飯食いに行こうか」「いや、いいですね」、「今日は寒いな」「いや、そうですね」とくる。どっちなんだよ、バカヤロー。
この彼の特技を生かして、「言い訳屋」なんてのはどうだろう。
「あなたに代わって、どんな言い訳も引き受けます。自分を棚に上げて、全部世の中や他人のせいにして、言い逃れして差し上げます」っていう商売だ。
借金の言い訳とかで困っている人も大勢いるだろうから、結構繁盛するかもしれない。
だが、よくよく考えてみると、フデキ社長は、「ぼくには無理です」と言い訳するからダメだ。
できない理由探し。
ほぼ言い訳に近いが、できない理由や問題点を上げさせたら超一流だ。
私が商売のヒントやネタを話してあげると、フデキ社長はすぐさま、10ぐらいのできない理由や問題点を列挙することができる。人間離れした早業で、もはや神の領域とすら言える。
この反応の速さを生かせないか。
「不可能コンサルタント」「問題点評論家」。
調子に乗って夢みたいなことを言っているヤツをつかまえて、「そんなのできっこない」と冷や水を浴びせる仕事。
ただ、そんな需要があるかどうか疑問だし、その前に自分自身が「そんなのできっこない」と言うだろうから、これもダメだ。
そうやって毎日毎日、できない理由ばっかり考えていて人生楽しいんだろうか。
何かアイディアが浮かぶ。でも、少し冷静になって考えてみると、「できない理由」の方が圧倒的に多い。そりゃそうだ。「できる理由」の方が多かったら、とっくの昔に誰かが始めちゃってるわけだ。
新しい商売のタネは、「できない理由」を一つ一つ潰して行く中にしかない。
フデキ社長を見ていると、いつも勉強になる。
最初から無理と決めつける生き方では、何も成功しないのだということを身をもって教えてくれているからだ。
会社経営に行き詰ったフデキ社長は「オレ様主義」である。
そんな主義ってあるの? いや私が命名してやったのだ。
とにかくすべての基準が自分(僕)なのだ。
「僕だったら、こっちを選びますけどね」
「僕は、そういうの別に気にしませんけどね」
「僕は、それって常識だと思いますけどね」
と、こんな具合。
あなたね、誰を相手に商売してんのよ。大事なのは、僕がじゃなくて、お客様がどう思うか、取引先がどう考えるかでしょ。
僕は世界を代表してないよ。
僕がいいと思ったって、お客様がよくないと思ったら、商売は成り立たないんだよ。だから、ちゃんと商売失敗しちゃってるわけだけど。
私はフデキ社長が主催するイベントに何度か参加したけど、全然面白くない。だって、全部僕の基準でやってるんだから。
たとえばバス旅行なんかにしても、僕がいいと思ったところに行って、僕が旨いと思うものを食べさせて、僕が好きなものをお土産にくれるんだから、僕と趣味が違う私は、何一つ満足できない。
僕が考えているのは僕の儲けだけ。そこには、お客を楽しませようとか、お客に満足してもらおうという発想が全くない。これじゃ、すぐに赤字になるよ。
というわけで、フデキ社長を見ていると、いろいろ勉強になるわけである。フデキ社長と正反対のことをやっていれば成功するか、そこまで行かなくても大失敗はしない。こういうのを「反面教師」って言うんだね。
「反面教師」は大事だね。
身の回りに気に入らないやつは大勢いるけれど、あいつは嫌いだで終わらせないで、あいつのどこが嫌いなのかをよく分析してみることにしよう。
嫌いな原因が分かったら、自分はそういうことをしていないかを謙虚に振り返ってみることにしよう。案外、自分も同じことをしている場合があるからね。
私は若いころと違って、あまり人に好かれようと思わなくなったが、やっぱり嫌われるより、好かれたほうがいいからね。人の振り見て我が振りを直すことにしよう。
知り合いのフデキ社長はいつも、自分は運の悪い人間だと言っている。
そうかな。
チャンスは誰にでも平等に訪れてると思うぞ。
ただ、「チャンスに後ろ髪はない」と言われるように、それを迅速な行動によってつかみ取る人と、その機会を逸する人がいるだけの話だ。
だから、フデキ社長はチャンスがつかめてないだけの話であって、別に人一倍運が悪いわけではない。
それと、「チャンスはピンチの顔をしてやって来る」という言葉もあるね。
チャンス到来!
そう誰も気づくような場面が訪れれば、さすがに見逃す人はいない。ところが、意地悪な神様は、チャンスをピンチの装いで登場させる。
しまった。失敗した。もう駄目だ。取り返しがつかない。
よくあることだね。
しかし、これらがピンチの顔をしたチャンスだったとしたら、人生はチャンスの連続ということになる。
フデキ社長に聞いてみた。
ピンチをチャンスと思ったことあるか?
もちろん答えはノー。
しかし、それでは、永久にチャンス到来とはならないな。
私もピンチの連続で心が折れそうになることがしょっちゅうあるが、そんなときは、「ああ、これはピンチの顔をしたチャンスなんだ」と思い直すことにしよう。要は逃げなきゃいいんだ。
フデキ社長には、いつも勉強させられるよ。
相手によって態度や言葉遣いを変える。
この使い分けは当然のことである。
だが、間違った使い分けをしている人がいる。事業に失敗したフデキ社長がそうだ。
ある時、かれが誰かと電話で話している場面に出くわした。
私にはどうも、その言葉づかいというか、話し方が気に入らない。
有体に言えば、上から目線というか、ぞんざいな言葉づかいで、エラソーな態度なんだ。
「今の電話だれ?」と私聞く。
「いや、役所なんですけどね。窓口が何もわかってないくせして、細かいし、うるさいんですよ」とフデキ社長答える。
やっぱりコイツはダメだ。失敗する。
役所の人間は、公僕かもしれんが、下僕じゃなからな。おれたちの使用人じゃない。
おれたちの税金で食ってる?
馬鹿言うな。大した税金払ってねえだろう。どころか、滞納してんじゃねえか?
「役所の窓口だって、会社の受付嬢だって、みんな仕事としてやってるんだろう。だったら『ごくろうさま』というねぎらいや、『ありがとう』という感謝の気持ちがあるべきだろう」と私言う。
「いやあ、今のは電話だからですよ。面と向かったときは、それなりの礼はつくしてますから」とフデキ社長言い訳する。
ブッブー、ソレダメ!
それ逆だから。
面と向かってるときは、表情とか態度とか全体的な印象で、こっちの気持ちが伝わるんだよ。でも、電話は言葉だけだから。もっと丁寧に、もっと優しく、一つ一つ言葉を選んで話さないとダメなんだよ。
またひとつ、失敗の原因を見つけちゃったな。
相手が自分より偉いと思ったら前かがみになる。相手が自分より格下だと思ったらふんぞりかえる。
一番嫌なタイプだな。と言うより恥ずかしいよ。
そういう人付き合いをしてると、いざというとき誰も助けてくれないんだよ。それどころか、「ザマーミロ」と思われてるんじゃないかな。
私も年をとったので、周りに目上の人というのが少なくなってきた。敬語をつかわなきゃならない場面も減ってきた。
こりゃ、ますます気をつけなければいかんな。
事業に失敗したフデキ社長の場合、どうやら私よりパソコンに向かっている時間が長いようである。
ある時、「あなたは、パソコンで何をやっているのか」と聞いてみた。
ちなみに私の場合、パソコンに向かっているのは、原稿を書いているとき、講演会などの資料を作っているときなど、基本的に作業をしているときである。
フデキ社長は、ネットをあれこれ閲覧している。
私も、そういうことがないわけじゃない。原稿を書いているとき、いわゆる「裏をとる」という作業が発生するからだ。
フデキ社長は、一体、何をしているのか。
「何か、ビジネスのヒントになるようなことがないかと思って…」
ああダメだ、ダメだ。これだから失敗するんだ。
いいか。いまヒントって言っただろう。
ヒントっていうのは、答を持ってるヤツ、答がもうここまで出かかってるヤツ、そういうヤツにしか役立たんのだよ。
たしかに、ネットの中にも、テレビの中にもヒントはあるよ。
でも、そのヒントを生かせる人と、そうでない人がいるわけだよ。言い方を変えれば、ヒントが隠されているのに、それに気づかない人がいるってことかな。
じゃあ、気づく人と、気づかない人の違いは何なのか。
こいつは簡単な話だ。
答えの前に、あるいはヒントの前に、「問題」があるわけだ。
学校なら先生が問題を出してくれるけど、社会人、ましてや自分で会社を作った社長には、誰も問題を出してくれないんだ。
だから、自分で「問題」を作る。
これが出来てないヤツが、そもそも自分の中で「問題」が明らかになっていないヤツが、ヒントや答えを求めて、ネットを眺めている。こんな滑稽な姿はないわけだな。
欠けているのは「問題」を作る能力。
自分は何をしようとしているのか。
自分は何をしたいのか。
問題がはっきりしてくると、世の中にはずいぶんとヒントがあふれているものなんだよ。