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勝者が誰もいない「いじめ自殺」裁判の顛末

 昨夜は、熊本地震のことで暗い気持ちになっているところへ、さらに重たい気分になる本を読んでしまった。

 福田ますみ「モンスターマザー」(新潮社:1400円+税)
 「長野・丸子実業『いじめ自殺事件』教師たちの闘い」 というサブタイトルがついている。

 これは小説(フィクション)ではなく、実際に起きた事件を題材としたルポルタージュである。
 ノンフィクションであるから、教師や生徒は仮名だが、県議・弁護士など実名で登場する人物も多い。

 2005年、長野県丸子実業高校(現・丸子修学館高校)バレーボール部の男子生徒が自宅で自殺した。
 部内でのイジメを苦にした自殺とされ、「丸子実業バレー部員イジメ自殺事件」としてマスコミでも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いだろう。
 事件の概要や、本書の内容については、ネットで検索すれば山ほど出てくるので、興味がある方は、ご自身で調べていただきたい。

 私はなぜ重たい気分になったか。
 それは、一つの小さな事件、もちろん少年が一人亡くなっているのだから、その意味では決して小さくはないのだが、もしかしたら命が救われ、多くの人が深い傷を負わなくても済んだ事件が、結果的には、関わった人すべてを不幸にしてしまうという、後味の悪い結末になっているからだ。

 まず、新聞やテレビが取り上げるが、悪いのは先生や学校や教育委員会であるという形でしか報道しない。真相を究明するよりも、悪者を叩くことに主眼がおかれる。
 それを見たり読んだりした人々が、ネットを通じて、悪者成敗に参加する。
 さらに、県会議員やら弁護士らが、弱者の味方として現れ、加勢する。

 このパターン。イジメ問題に限らず、今も繰り返し行われている。

 しかし、この事件では、加害者とされた生徒・保護者や先生・学校が反撃に出る。
 殺人罪で告訴された校長ら学校側が、生徒の母親を逆告訴し、さらには、担当弁護士までも告訴する。

 結果は、8年にも及ぶ長い歳月をかけ、ほぼ学校側の全面勝訴に終わるのだが、とてもじゃないが「ああ、よかった」という晴ればれした気分にはなれない。

 生徒を一人失ったのだ。加害者とされ裁判で被告席に座らせ、生徒に深い傷を負わせてしまったのだ。
 だから、裁判に勝ったと言っても、自分たちが勝者だと思っている先生は、一人もいないだろう。
 本書は、そういう不幸な事件の顛末を描いた力作だ。

 


 

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受験生・保護者の皆さん、学校や塾の先生方に最新情報をお届けします。ただし、結構頻繁に受験と無関係の話も。

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